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起業家・木村節三・KEC教育グループ理事長木村節三・KEC教育グループ理事長

“安全”を開発せよ! 〜世界初、夢のナット開発に賭ける〜

6.「夢のナット」を開発せよ!

 絶対に、何があっても緩まないナット。その開発の手がかりは、思わぬところにあった。昭和 48 年の暮れ。その日、若林は自宅近くの住吉大社を私用で訪れていた。そこで、目を奪われたのは、偉容な存在感で佇む歴史ある大鳥居。本来、鳥居の建造には、モノとモノが離れないようにする古代建築の楔(くさび)が使われている。その原理は単純だが、強力なエネルギーを発する。

 「これだ!」。

 若林は、この楔の原理を応用して、ナットとボルトのすき間に楔をカチ込めないか、と考えた。早速、ボルトとナットの隙間に、ハンマーで楔をカチ込むと、確かに緩み止め効果が発揮される。だが、いちいち現場で作業員が楔を打ち込むとなると、作業性は極端に低下する。簡単で、しかも絶対に緩まないナットを開発するには、ナット自体に楔の役割を内在させるしかない。しかし、そんな手品のようなことは可能なのか?

 若林は、また朝から晩までナットと楔のことで頭がいっぱいになる。そして、何度も試行錯誤を繰り返し、その末に2個のナットを使えば、楔とハンマーの役割を分業化することができることを探り当てる。

ハードロックナットの締め付け構造。上ナットを締めると、偏芯を施したナット接着面でくさび効果が発揮される

 その原理は、凸形状の下ナットの凸部分を少しズラして偏芯を施すと、それが楔の役目を果たし、そこに凹形状の上ナットを締め込んでいくと、ハンマーで楔をカチ込む動作と全く同じ効果が表れる、というものだった。しかも、その楔効果は強力。一度、ナットを締めれば、緩もうとすればするほど、緩み止めのロック効果が発揮される。何より、楔はネジの回転力で誰もが簡単に押し込むことができるので、効率的だ。取り外しも簡単で、何十回と使ってもロック効果が衰えることはない。

 絶対に何があっても緩まない「ハードロックナット」の完成が現実のものとなった時、若林は飛び上がるように喜んだ。「これで、救われた。これからは、堂々とお客さんに商品を使ってもらえる」。そんな思いが、先に立った。「 U ナット」の生みの親である若林にとって、それほどお客さんのクレームを聞くのは、辛い体験だったのだ。

 そして、嬉しさのあまり、とんでもない失言もしてしまう。開発と同時に「ハードロックナット」の成功を疑わない若林は、その場の勢いで、「 U ナット」を共同経営者に無償で譲る、と公言してしまったのだ。簡単に「譲る」と言っても、それは「 U ナット」の特許権および販売権、設備・人材にいたるまで、全てを考え合わせると、何十億近い資産になる。若林は、それを販売量のたった5%のロイヤリティーを受けるという条件のみで、簡単に手放してしまった。共同経営者は、「本当に、それだけでいいんですか?」と念を押したが、当の若林は「それでいいですよ」と何の未練もない。もう頭の中は、「 U ナット」のしがらみから逃れ、新会社を立ち上げて夢のナットを販売できる喜びでいっぱいだったのだ。

 「実際、失言してしまった後、とても後悔したんですわ。妻や弟にも、こっぴどく怒られましたしね。いくら嬉しいからって、一呼吸おいてから今後のことを考えればいいのに、その時は全く損得勘定を考えなくて…。考え直しても、後の祭りでした」。

 しかし、その思わぬ失言は、裏を返せば、それほど「ハードロックナット」という商品に絶対的価値があったということである。絶対に何があっても緩まないナット。それは、安全を最重要視する産業界にあって、「夢のナット」の誕生でもあった。若林の前には、無限の可能性が広がっていた。
   
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